未来の価値 第48話 |
負けた。 結局藤堂は黒の騎士団に奪われ、ランスロットも破損。 よくぞ追い返したと称賛する声もあるが、黒の騎士団は予定を終えたから撤退しただけにすぎなかった。足止めすらできなかったのだ。完敗だとスザクはランスロットを積んだトレーラーの中で項垂れていた。 世界で唯一の第7世代。 確かに相手は複数だったが、それでも勝てない相手ではなかったはずだ。 その証拠に最初はこちらが押していたのだ。 途中から相手の動きが変わり、そこからは一方的に追い込まれた。 完全にこちらの動きを読まれていた。 良いことと言えば・・・藤堂が逃げ出したことで、処刑せずに済んだことか。 戦場で会えば命のやり取りをすることにはなる。 でも、処刑よりずっといい。 「スザクくん大丈夫?」 信号で停止し、セシルは後部座席で項垂れているスザクに声をかけた。 「僕は大丈夫ですが・・・すみません、勝てませんでした」 「何でそんなに落ち込んでるのかなぁ?1騎であれだけ相手にできたんだよ?普通なら喜ぶ事じゃないの?」 スザクの気持ちが解らないという様に言った。そんな事よりランスロットの方が大事だよと大きなため息を吐く。とは言え、破損箇所は藤堂の攻撃で切り取られたコックピットの屋根だけなので修理はすぐ終わるが。その時、ロイドの携帯が鳴り、めんどくさいなあと言う顔でロイドはそれに出た。 「ああクロヴィス殿下。はい、ええ、大丈夫です。イエス・ユアハイネスではそのように」 電話を切るとスザクを見た。 「う~ん、よく解らないんだけどさ、戻り次第殿執務室に来いって。なんか怒ってるみたいだねぇ」 君、なんかしたの? 「え?いえ、したとすれば今回の件じゃないかと・・・あの程度いなせない様ならルルーシュの騎士にはさせないって言われたらどうしよう・・・」 スザクは属国に人間だ。 そのスザクが皇子の騎士になるには、普通のブリタニア人の貴族では到底無理だと思えるほどの実績を作る必要があるだろう。だが今回の件で負けたスザクに、弟を任せられないとあのブラコンクロヴィスなら言い出しかねない。 ああ、どうしよう。 ・・・政庁に戻る間、そんな事を悩んでいたスザクは、自分の考えの間違いに安堵する以上の衝撃を受けた。 「殿下。申し訳ありませんが、もう一度お聞きしてもよろしいでしょうか」 ロイドは聞き間違いかなぁ?と、スザクとセシルを見たが、あまりの内容に、二人は驚き声を無くしていた。目の前には今まで見た事がないほど怒りをあらわにしたクロヴィス。どれだけ頼りなく、どれだけ脆弱に見えてもやはりあの皇帝の息子だけあり、その威圧感と威厳はかなりの物で、三人は思わず身を縮めた。 「いつの間に、ユーフェミアと騎士の誓いを立てたのかと聞いたんだ」 再び紡がれた言葉に、やはり聞き間違いではなかったのかとスザクは冷や汗を流した。何だ、何の話だ?ユフィと騎士の誓い?いや、ルルーシュには猛アタック中だけどどうしてユフィ?考え過ぎて頭の中がぐるぐるしてきたスザクは、考えるのをやめてクロヴィスに質問をした。 「・・・あの、自分が、ユーフェミア様と、騎士の誓いを、ですか?」 一字一句間違えないようゆっくり口にすると、クロヴィスは不愉快そうに眉を寄せた。 「そう言っているだろう。私はな、スザク。君がルルーシュの騎士にと願っていた事は知っているし、そのために努力をしていることも見ていた。だからルルーシュの騎士になってくれればと思っていたのだが、まさか隠れてユーフェミアにまで同じことをしていたとは思わなかったよ。・・・君には失望した」 皇族の騎士になれるなら、ユーフェミアでもルルーシュでも、どちらでもよかったという事か!と激昂するクロヴィスに、え?え?と、スザクはますます混乱した。 何の話だろう。 本当に何の話だろう。 心当たりが全くない。 「クロヴィス殿下、それはあり得ませんよ。現にここにくる間ずっと、藤堂を取り逃がし、黒の騎士団も逃がしたことでルルーシュ殿下の騎士になれなかったらどうしようって、それはもうウザいぐらいに落ち込んでたんですから」 そのスザク君が裏でユーフェミア様となんて考えられませんよ。 と、ロイドは加勢した。こんないいがかりで最高の上司を逃すことになったらロイドも困るのだ。 「殿下、スザク君はそんなに器用な子ではないと思います」 ルルーシュに隠れてユーフェミアにも・・・なんて画策出来るほど賢くは無いとセシルも加勢する。なかなか酷い内容だが、スザクとしてはこのわけのわからない疑いが晴れるならどうでもよかった。 「あ、あの、ルルーシュ・・・えっと、ルルーシュ殿下が僕の事を、その、見限ったという事でしょうか」 もしかしてルルーシュ殿下がそんな話を?と、眉尻を下げ、泣きそうな表情で訴えると、ようやくクロヴィスは冷静さを取り戻し、これはまさかと冷や汗を流した。 「・・・スザク、質問に正直に答えるように」 「何でしょうか」 「ユーフェミアと専任騎士の話をした事は」 「ありません」 そういうことかと、クロヴィスは頭を抱えた。 見た方が早いだろうと、クロヴィスはバトレーに命じモニターを用意させた。一体何が始まるのだと、スザクもセシルも不安げな表情で画面を見つめる。なんとなく状況を悟ったロイドは、早くランスロットの整備がしたいと顔にでかでかと書いてあり、実にめんどくさそうな顔をしていた。 モニターに映し出されたのは、トウキョウ租界に新しく完成した美術館の落成式に赴いていたユーフェミアの映像だった。本来であればこの美術館の設計から手がけているクロヴィスが出席するはずだったが、スザクの問題が発生してしまい急きょ代理としてユーフェミアが出席する事になった。 予定外の公務に、心の準備が出来ていなかった彼女は緊張した面持ちで、カメラの前に立っていた。記者から次々と飛んで来る質問にユーフェミアは混乱し、何も話せなくなっていたが、ダールトンがうまく補佐し記者をあしらっていた。 副総督であるユーフェミアの主な仕事は視察だが、まだ人前で突発的な質問に答えられなかった。この辺りは慣れが必要だろうとクロヴィスもルルーシュも考えていたため、さほど問題視はしていない。幸い今はダールトンが来ている。ルルーシュやクロヴィスと一緒だと、彼女は二人の兄を頼ってしまうから、この機会に少しでも経験を積ませられるかもしれない。そんな思惑もあり、緊急な案件で不参加とするのではなくユーフェミアを代理に立てたのだ。 彼女にとっては、今回の対応は反省する事だらけだろうし、恥ずかしい思いもしているだろう。その気持ちがなければ、成長は難しい。これらの記者会見の映像は編集され、ユーフェミアが恥をかくような映像が流される事はないから、彼女が立ち直れないような状況になる事はない。それを知っているからこそ、ダールトンも彼女一人で会見をさせることに承諾を示し、こうして付き添ってくれたのだ。 そんな中、ある記者がユーフェミアの騎士の話を口にした。 どうやら何処かから、彼女が騎士を選ぼうとしていることを聞いたのらしい。まだ誰も選んでいないユーフェミアは困惑し、やはりダールトンが記者に答えた。回答しなければいけないのに、それが出来ない。いつもの明るい笑顔が消え、暗い顔になっていくユーフェミアは報道陣の前にいる事を既に忘れているようだった。 今目にしている映像は、編集される前のもの。その当時の様子が隠されることなく克明に記録されたものをテレビ局から手に入れたのだ。 この時クロヴィスは、スザクに与えられた恩師の処刑を取りやめるため奔走していた。まだ事は起きていないのだから、間にあわせようと手を回すのだが、コーネリアから直接命令された将校たちは、「これはコーネリア皇女殿下からの勅命である」と言って取り合おうともしなかった。 ルルーシュとクロヴィスはコーネリアより地位が低い。 そのため、上位の皇族であるコーネリアの命令が優先させれていた。 総督であるクロヴィスのよりも、別のエリアにいるコーネリアが優先されるという異常事態は、今はルルーシュより下位の皇族となったことも原因かもしれない。 皇位継承権第4位。 その地位が、ここでの支配権よりも勝っているのだ。 本来ではあり得ないことだった。 これは密かにコーネリアがエリア11に勢力を伸ばしていたことの証明であり、いかにクロヴィスとルルーシュをなめているかということの表れでもあった。 愛する妹ユーフェミアを、エリア11に送らなければならない。 自分の元でならまだいい。だが、いくら兄とはいえ、芸術面にしか才能の無いクロヴィスと、主義者的で、黒の騎士団と繋がりかねない危険思考のルルーシュがいる場所に、純真無垢で心優しいユーフェミアをなど、コーネリアには許せる事ではなかった。 その気持ちは解らなくもない。 ルルーシュも、もしナナリーを自分と関わりの無いエリアに送られたなら、いくら副総督という地位を与えられていても安心など出来なかっただろう。不安要素をできるだけ排除し、ナナリーが安全に過ごし、そして少しでも功績をあげられるようにと裏から手をまわしていたに違いない。だが、こんな風にその地を治める者たちをないがしろにし、自分の力を、意思を押し通すような真似は絶対にしなかっただろう。少しでもナナリーの印象をよくし、ナナリーを護ろうという意思を持たせる。 そんな裏工作とこれはあまりにもかけ離れ過ぎていた。いや、そもそも裏工作とは間逆なのだ。 コーネリアは堂々と貴族や将校達を懐柔し、その結果、このエリアの支配者でもない人物が、我が物顔で命令を下し、支配者を封じるという、あり得ない事態になっていた。 これが、ブリタニアなのだ。 ただ生まれが早かった。 それだけでこれだけの横暴が許されてしまう。 そんな事許されていいはずではないと、ルルーシュとクロヴィスはそれぞれのやり方で手をまわしていたその時、奇跡の藤堂とも呼ばれているスザクの師を救い出すため黒の騎士団が奇襲をかけた。そこに居合わせていたスザクはランスロットを駆り、たった一騎で黒の騎士団と戦った。 その映像が、この美術館のモニターに大きく映し出されたのだ。 記憶に新しいあの戦場がモニターに映し出され、スザクは驚き目を見開いた。先ほどまで、この結果にひどく落ち込んでいたスザクからすれば、今は見たくもない映像だったが、ロイドはこの映像を是非欲しいと、即座にバトレーと交渉を始めた。 敵機に囲まれながらも、たった一騎で戦っていたランスロットだったが、藤堂の三段突きでコックピットを損傷した。そして、その姿がモニターの前に露わになる。 ざわざわと辺りは驚きの声をあげた。 まだ子供、しかもブリタニア人ではない。 イレブンだ。イレブンがなぜKMFに? そのとき、彼女が言ったのだ。 「皆さま、先ほどの質問にお答えします。彼が私の騎士、枢木スザクです」 彼女の発言に、部屋の中は水を打ったように静まり返った。 |